新・英雄伝説III 白き魔女レビュー紹介

opening 「詩うRPG」、 この言葉をおぼえているでしょうか?そう、PC98シリーズで「白き魔女」が発売されたときのコピーです。「白き魔女」のゲームコンセプトに実にあった言葉なのですが、これを考えてくださったのが発売当時書評をされていた板東齢人という方です。実は最近話題になった映画「不夜城」の原作者である馳星周その人なのです。板東氏も「白き魔女」にハマった一人で当時ファルコムの広告に原稿を書いていただいています。今回はその原稿を掲載してみました。このページ担当者の自分も実は「白き魔女」がきっかけでファルコムに入社したのですが、「白き魔女」をプレイした時に感じたことが全てここに書かれているように思えます。改めて多くの人に影響を与えた作品なんだなと何となく嬉しかったりします。是非読んでみてくださいね。

  物語ることへの明確な意志


今でも「英雄伝説III」のサンプル版をプレイしたときの驚きを、ぼくはよく覚えている。
いや、この書き方は正しくない。文字通り”はじめ”にこのゲームに触れたときには、「ああ、また強制イベントの多いかったるいゲームじゃん。天下のファルコムがこんなゲーム作るなよ」と、半分シニカル、半分うんざりしてキィボードを叩いたのだ。さすがにファルコムのソフトだけあってCGは美しいしディティルは細かい、だが、それだけのゲームじゃないか、と。
だが、そんなぼくの醒めた思いは、序章の中盤で起こるあるイベントを機会に、いつの間にかきれいさっぱりと消えていた。気がついたら、パソコンゲーム雑誌の記事を書くためにプレイしているのだという現実を忘れてのめり込んでしまっていた、というやつだ。(中略)
そんなぼくが「英伝III」にのめり込んでしまったのは、当然、理由がある。ぼくの頭の中には、「強制イベントの多いRPG=なるほどストーリィは面白いかもしれないがやりたいことがぜんぜんできなくってそのくせ、イベントをクリアするためのレベルアップ措置という以外の何の目的も持たない戦闘を延々とさせられるゲーム」という図式ができあがっていたわけなのだが、「英伝III」は、画面レイアウト・ストーリィなどなどの輪郭こそ、そうした類のRPGに酷似しているが、実は、全く別種、といっていいかもしれないほど違うゲームだったのだ。イギリスで生まれたラグビーから派生してアメリカで生まれたアメリカン・フットボールが、似たボールを使うというだけで、ルールも楽しみかたもまったく違うスポーツであるように、「英伝III」と従来のRPGは違うのだ。
では、その違いはなんなのか?というと、一言でいえば、物語ることに対する徹底したこだわり、である。
従来のRPGの最大の欠点は、「物語ること」と「ゲーム性の追求」を違和感なくミックスさせようとしてきたことにある。とぼく個人は考えている。この両者は、水と油だ。プレイヤーが物語に感情移入していけば、どんなによく練りあげられたシステムを持つ「ゲーム性」も、ただわずらわしいだけのものにすぎなくなるし、ゲーム性が高くなればなるほど、物語なんてどうでもよくなってしまうのだ(RPGでは後者の例は少ない。ゲーム性だけで独立できるのだから)。(中略)
「英伝III」は、誤解されることを承知で書くと、たぶん、そうしたことを踏まえて、ゲーム性の追求ということを極力無視して制作されたゲームなのだ。戦闘はオートでユーザーが介入できるのはきわめて限られた範囲だけだし、反射神経やパズル的な思考を要求されるイベントは、おのおの一つずつしかなかった。ゲームの中に存在する、わずかな要素を除いたほとんどすべての事柄が、「物語る」という一点に集約されている、つまり、パソコンゲームにおける物語の質を高めることこそが、「英伝III」というゲームソフトが、表現しようとしていることなのである。 では、その「物語の質を高める」ためにはなにをすればいいか?起伏に富んだ冒険譚だけでは人を感動させることはできない。ぼくたちと同じように呼吸し、ものを食べ、眠り、哀しみ、喜び、ときに泣き、笑う、そうした血の通ったキャラクタたちが、まず必要だ。キャラクタたちに血を通わせるには、彼らの世界にリアリティを持たせることが必要になってくる。そして、パソコンゲームに限らず、物語世界にリアリティを持たせるにはディティル(細部)にきめ細かく配慮する以外に方法はない。「英伝III」の制作スタッフたちは、ゲーム性に目をつぶる代わりに、その方法論を採用したのだ。(後略)

演出へのこだわり


ゲーム中に遭遇するイベントは、そのほとんどが強制的に進行するものだ。プレイヤーにできることは、あらかじめ引かれたレールに沿ってキャラクタを動かすことだけである。この、いわゆる強制イベントもまた、ぼくのRPG嫌いを増長させてきた代物であったのだ。ああだこうだとあちこちに引きずり回されて、挙げ句の果てにアニメーション処理による演出、などというゲームをするぐらいなら、本物のアニメを見ていた方がなんぼかマシだ、とすら思っている。実際、このソフトに先立つ「英雄伝説」シリーズのIとIIもそうしたRPGだった。
  だが、IIIは違う。まずアニメーションはない。一枚絵のCGもない(エンディングは別)。すべて、マップ上のキャラクタたちの行動でイベントの演出がなされているのだ。まぁ、これはグラフィック機能の低い家庭用ゲーム機のソフトにはよくあることで、それだけでは驚くには値しないのだが、その演出のきめ細かさにはただただ頭を下げるだけだ。ここまでやられたら、強制イベント嫌いのぼくでもワクワクしながら次の展開を心待ちにするという状況に追い込まれてしまうではないか。事実、ぼくは序章(「英伝III」は全9章で構成されている)のメインになるイベントの合間、唇を緩めてニヤニヤ笑いっぱなしだった。もちろん、それ以降に遭遇したイベントも同じだ。町から町への移動の間には、次のイベントは何かな、どんなことが起こるのかな?と常に考えている始末だ。ゲームの冒険に完璧に感情移入してしまったと証しといってもいいだろう。
この文章を書くためのテストプレイは、ファルコム本社でやったのだが、もしサンプルを家に持ち帰っていたなら、確信を持っていうが、ぼくは、徹夜でプレイしていたはずだ。ストーリィ、演出、高さの概念の導入を含めたディティルのこだわり、物語の質を高めるために費やされた努力のすべてがぼくを捕らえて離さなかった。たぶん、ファルコム社員以外でこのゲームを最後まで遊んだのはぼくが初めてだろう。バカみたいだが、そのことがとても嬉しい。

新しい可能性への扉


つらつらと好き勝手なことを書いてきた。ソフトハウスから直接仕事を依頼されるのは初めてで、なおかつ、パソコンゲームに関してこれほど力を入れて原稿を書いたのも初めての経験である。前にも書いたが、ぼくはそれほどゲームが好きではない。ゲーム・ライターをやっているのだって、さまざまな事情からそれが職業になったというだけのことにすぎないのだ。僕の本職は「小説読み」であって、小説の面白さに比べたら、やはり、ゲームは暇潰しだな、という感覚をいつだって持っている。だからファルコムから原稿を依頼されたときは、迷ったのだ。ぼくじゃなくとも、ゲームを愛していて「まとも」な文章を書けるライターは他にもいるじゃないか、と。それでも、結局は、原稿を引き受ければ発売前に「英伝III」をプレイできると誘惑に負けてしまった。ぼくはそれほどこのゲームに入れこんでいるのだ。(中略)
「英伝III」がある程度売れれば(売れるはずだ。売れてほしいな)、他のソフトハウスもこの路線に目を向けてくる。発売されるソフトの本数が多くなれば、必ずそのジャンルは成熟に向かって進化していくはずだ。そのうちに戦闘がまったくないゲームが登場するかもしれない。少年や少女ではなく、背中にしっかりと人生を背負った大人の男(女)が主人公の、いわゆる大人の鑑賞に耐えうる物語が登場するかもしれない。そういうソフトが数多く登場すればパソコンゲームは子供たちの遊ぶものという固定観念が崩れ、一般の新聞や雑誌攻略ではなく、きちんとした批評として、記事が載るようになるかもしれない。そうした可能性が「英伝III」には秘められているのだ。RPGに似て異なるもの、インタラクティブなビジュアル・メディアとでも呼ぶべきような新たなジャンルを産み起こす可能性が「英伝III」には秘められているのだ。
戦闘が少ない(ない)、ゲーム性に乏しいということであれば若いユーザーから「だったら映画でも見ていればいいのに」という批判が飛びでてきそうな気がする。だがその批判は間違っている。インタラクティブであるということが、パソコンにまつわるあれやこれやの唯一にして最大の特異性なのだから。
まぁ、ぼくの能書きなどもう、どうでもいいだろう。遊んでみればすべてわかるはずなのだ。「英伝III」は面白い。
ファルコム本社でテストプレイをしているとき、社長がぼくの肩を叩いてこういった。
「しっかり遊んでくれよ。絶対に泣けるからな」
社長は嘘をついたことになる。エンディングを見ても、ぼくは泣かなかった。でも、それはすぐ近くに社員の方がいたからで、自分の部屋でエンディングを迎えていたらぼくは実際に泣いていたかもしれない。
その証拠にぼくは泣かなかったが、目が潤んでいるのを見られないかどうか心配でしょうがなかったからだ。
板東齢人
 



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